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56.エネルギッシュ中国 |
2004年5月13日高知新聞掲載 |
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ゴールデンウイークはチャーター便で中国へ行きました。
アメリカ西海岸へ行ったようなジャンボジェットではなく、定員約120人のこぢんまりとしたジェット機です。
高知龍馬空港から北京まで約3時間、帰りは西安から約3時間半の飛行時間でした。
出発前に新型肺炎(SARS)の報道があったりして少し心配したのですが、チャーター便が着くと、マスク姿の人など一人も見えないエネルギッシュな大都会北京がありました。
以前は日本だけが5月に連休をとっていたのですが、4年前から中国も5月1日のメーデーから7日までを連休にしています。
そのせいでこの時期に中国に行くと、天安門広場や万里の長城など観光地は国内旅行を楽しむ中国の人たちでいっぱいです。
最近の北京の通行人は都会的な装いですが、連休には昔の日本の東京見物よろしく、北京見物のお上りさんが一目でそれと分かる物珍しそうな顔をして歩いています。
20年ほど前には、観光旅行など想像もできないような環境でぼんやりとした目で日本からの観光客を眺めていた人たちが、生き生きとした顔で観光を楽しんでいる幸せそうな様子を見るのは良いものです。
中国は今、世界で最も変化をしている国の一つです。2年もたつとビルができ、高速道路ができ、街の様子が変わります。
それ以上に街を歩く人々の表情が変化します。
これからどのような変ぼうを見せるのか、しばらくは中国そして北京から目が離せません。 |
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57.誠実な敦煌のガイド |
2004年5月20日高知新聞掲載 |
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チャーター便で行った中国ツアーでは敦煌(とんこう)まで行くコースへ同行しました。井上靖の小説で有名になった敦煌は北京から西へ2,200キロ、直航の国内線で約3時間の距離です。
日本なら南から北へ通り抜けてしまうほどの距離ですが、さすが大陸。窓から見ても陸地ばかりの飛行です。
久しぶりの敦煌は、かつてシルクロードのオアシス都市だったということを忘れてしまいそうな近代的な町になり、日本人御用達のような設備の良いホテルができていました。
快適なのはよいのですが、身勝手なことを言わせてもらえれば、以前の方がシルクロードらしくて面白かったという印象です。それでも郊外に出ると、日本では絶対に見られない荒涼とした砂漠が、時にはしんきろうまで見えて地平線まで続いています。
敦煌の現地ガイドは地元出身の若い男性で、一生懸命に説明するのですが、最近では珍しく上手とは言えない日本語です。聞いていて意味の分からない部分もあるのですが、まじめさと誠実さが体全体から出ているような汗だくの説明なので、決して不愉快ではありません。
慣れて片手間で仕事をこなしているようなガイドよりはずっと好感が持てます。それでも敦煌最大の見どころ、世界遺産の莫高窟(ばっこうくつ)の説明は日本語の達者な専門の学術員に代わってもらいました。
聞いたところ、ガイド氏は昨年、蘭州の大学の日本語科を卒業し、ガイドをしながら言葉も覚えると、希望に燃えていたようです。
ところが新型肺炎(SARS)とイラク戦争の影響で、敦煌にも観光客が全く来なくなりました。
「私はせっかく覚えた日本語の30%以上忘れてしまいました。今年のオフシーズンには上海へ日本語の勉強に行きます」と、真剣そのものです。愛すべきキャラクターなので頑張ってもらいたいのですが、新型肺炎はこんなところまで影響を残していました。 |
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58.高知ゆかりの島 |
2004年5月27日高知新聞掲載 |
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高知龍馬空港が拡張されたことで、今年は海外へのチャーター便が増えました。月に2機飛ぶのも珍しくない状況です。ただ、最近は地方空港からも海外への定期便が出ていますが、高知から定期便が出るような話は今のところありません。
松山からはソウル便が週3便、上海便が週2便、高松からはソウル便が週3便飛んでいます。四国以外の近いところでは、岡山からソウル、上海、グアムに定期便があり、グアムへはアメリカのコンチネンタル航空が就航しています。グアム経由で、サイパン、パラオ、チューク(トラック島)、ポンペイ(ポナペ)、ケアンズなどへ乗り継ぐことができます。
そのミクロネシア連邦のチューク(トラック島)と高知には深いかかわりがあります。
知る人ぞ知る類(たぐい)の話になりますが、明治時代、トラック諸島に高知市出身の森小弁が単身上陸、酋長(しゅうちょう)の娘と結婚して島の発展に大きな功績を残しました。小弁は漫画の「冒険ダン吉」のモデルという説もあります。
現在子孫は1,000人を超えていて、チューク州に確固たる勢力を持つ大ファミリーです。その縁で5、6年前には高知市から市長が表敬訪問をしたり、チュークから州知事を団長として森小弁の子孫も加わった訪問団が高知を訪れたりしました。
私も数年前、“少し変わった所へ行きたい”趣味の方たちに集まってもらい、10人ぐらいの“トラック島ツアー”で訪れたことがあります。滞在中に私たちが高知県から来たことが伝わって、帰国前夜予定に無かったチューク州知事夫妻との会食になりました。席上、話の成り行きとアルコールのせいで、つい“今後の民間交流のお手伝いをしたい”というような大見えを切ってしまったのですが、全く果たせていません。軽はずみを反省しながら心残りになっています。
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59.日本文化色濃く |
2004年6月3日高知新聞掲載 |
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ミクロネシア連邦のチューク(トラック島)へはグアム島から約1時間半の飛行時間で週4回コンチネンタル航空の定期便が飛んでいます。
チュークは空港や州政府のあるモエン島を中心に90あまりの島で構成されていますが、人口はミクロネシア連邦全体で約11万人、チュークはその半分です。
トラック諸島は太平洋戦争当時は日本の統治下で重要拠点でした。戦局が悪化した後、サイパンやテニアン島のような凄惨(せいさん)な上陸作戦はなかったのですが、航空爆撃や艦砲射撃で徹底的に破壊されました。
それから50年以上たった現在、透明度が高く環礁に囲まれた海底には、その当時沈められた約60隻の船舶や航空機などがかなり良い保存状態で眠っています。海中戦跡公園に指定され、世界的に有名なダイビングスポットです。
沈船ダイビングを目的にチュークを訪れる人々は多いのですが、ダイビング以外の観光資源が少ない関係で一般の観光客は多くありません。また樹木が波打ち際まで迫っているため、海水浴に適したビーチもわずかです。
それでも高知からチュークを訪れると、日本文化が色濃く残っているせいか、気候が全く違う場所でありながら郷愁のようなものを感じます。
モエン島や近隣の島々には日本統治時代の神社の跡や、零戦が発着していた滑走路の跡、戦艦大和が入港した港の跡などが残り当時を偲(しの)ばせます。
そして何より、島内の各方面で活躍し“森小弁の子孫”と誇りを持って名乗る人たちとの出会いが、他の土地にはないチュークの魅力です。 |
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60.スペシャル版の夕陽 |
2004年6月10日高知新聞掲載 |
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トラック島(現在のチューク)から1時間15分の飛行時間で、20年ほど前まではポナペ島と呼ばれていたポンペイに着きます。イタリアの有名なローマ時代の遺跡と同じ名前で紛らわしいのですが、トラック島と同じミクロネシア連邦の一部です。
円形の島で直径約20キロ、このあたりの島には珍しく標高500メートル級の山が連なり、海岸線はマングローブの林に覆われています。この島も戦前は日本の統治を受けていたので、高齢の住民は日本語が話せます。沖合3キロくらいのところを島を一周するようにバリアリーフ(環礁)が囲んでいるため、内海は太平洋の大波が全く届かず、湖のように安全なマリンスポーツ天国です。
小ぶりのホテルが数カ所にありますが、以前その中の一つ、山の中腹に立つ見晴らしの良いロッジスタイルのホテルに泊まりました。これまで海に沈む夕陽(ゆうひ)や砂漠に沈む夕陽など、さまざまな場所で感動的な夕陽を見ましたが、このホテルから見たものは最高傑作の一つです。熱帯地方独特の鮮やかな赤が、夕暮れに現れた雲の影響で抽象画のような模様になり、眼下に広がる鏡のような海面全体に広がり、息をのむような光景になりました。
過去に見たもう一つの傑作は、アマゾン川の中流マナウスの夕陽です。ここでも空の赤が、対岸が見えないほど彼方(かなた)まで続く水面に映って、空気まで赤くなったようでした。
波のある海や流れの激しい川には夕陽は映りません。空と広大な水面の両方にまたがる夕陽は、環礁に囲まれプールのような内海を持つポンペイや、とうとうと流れるアマゾン川のような場所でだけ見られるスペシャル版のようです。
ただし理想的な夕陽のためには気象状況が大きくかかわってきます。ポンペイにはその後も行ったのですが、魂を奪われるようなあの夕陽は二度と現れてくれません。 |
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